以下、建築家によるテキストです。
【空間に参加する屋根架構】
木造用ビスメーカーのシネジックの新社屋新築計画である。新社屋として、木造の可能性を広げる先進的な建築であり木造建築の普及に貢献するような提案が求められた。シネジックでは一般的なデスクワークに加え、実験や外部の研究者との協働などのものづくりの業務も行われている。そこで新社屋では社員同士の働き方が影響し合い、活発な対話や連帯感が生まれるような場と社内の雰囲気をつくりたいと考え、18mの大スパントラスによる大屋根の一体空間に多様な場が遍在する計画とした。
一方で、木造建築においてはその特性上屋根に関連した架構部分が見所となり、記号としての“木”を見上げる空間体験となることが多い。ここでは木の架構を記号然として振る舞わせず、空間に参加させ、そこで行われる日常的な人の行為に関わらせたいと考えた。そこで屋根架構は時に壁として振る舞うように4隅を低くおさえ、そのなかに地形的で動きのある床を配置した。手が触れる程架構に近く覆われた場や空間の繋がりを感じるひらいた場など多様な場所性が与えられている。それらの間に動線を巻き付け、空間の緩急、視線の抜け、多層性に誘発されてくるくると移動しながら社内の情報が混ざり合う刺激のある社屋となることを目指している。
【CLTの新たな可能性と極点】
立体的な屋根形状は、105幅の住宅用集成材による平面トラスを三角形のCLTパネルで緊結することで形作られている。CLTパネルの採用で接合部の複雑な加工と特注を要する金物による接合を回避し、工場によるプレカットと現場でのビス接合という合理的な施工を可能にした。これにより壁や床に使われることが多く重い印象のCLTパネルを立体的な屋根に軽やかに用いることができ、CLTの新たな使い方を示す建築が実現できた。またCLTは1階の壁部分にも鉛直荷重を負担する区画壁として現しで用いている。CLT表面の風合いを大理石さながらに徹底管理した上、一般的なCLT金物ではなく意匠性、施工性を考慮したビス接合を試みている。現時点でのCLTの高コストに見合ったこれらの意欲的な工程を経て、モジュールがなく木質感をより強調する大きなCLT壁面を吹抜空間に実現できた。今後進展するCLTの将来に向け、今回の壁面における方法は1つの極点を実践したと考えている。
SYNEGIC office / シネジック社屋
所在地:宮城県富谷市
用途:事務所
敷地面積:2407.30㎡
建築面積:633.75㎡
延床面積:834.81㎡(1階:512.31㎡ 2階:322.50㎡)
建蔽率:26.32%(許容80%)
容積率:34.67%(許容200%)
階数 :地上2階
高さ:最高高さ11.22m、軒高8.22m、階高3.1m
構造 :木造(軸組工法・CLT) 一部鉄骨造
耐火種別:準耐火建築物(ロ準耐)
その他:林野庁 / JAS構造材個別実証事業
意匠:ウエノアトリエ UENOA/長谷川欣則・堀越ふみ江
構造:ホルツストラ/稲山正弘 + KMC/蒲池健
設備:ジーエヌ設備計画(機械)
タクトコンフォート株式会社(電気)
外構:SfG landscape architects / 大野暁彦
家具:807 DESIGN / 濱名剛
元木大輔 / DDAAによる、東京・渋谷区のユトレヒトでのデザイン展「FRUITS BOWL」の会場写真です。会期は2020年2月16日まで(※月曜日休)。展示の公式ページはこちら。
建築家・元木大輔が代表をつとめるDDAAによる展覧会”FRUITS BOWL”を開催します。同名のZINEの販売のほか、会期中の2月8日にはフルーツサワーを出すイベントも。ぜひ足をお運びください。ある日箱買いしたみかんを置く場所がなかったので、事務所に転がっている素材を使って簡単に作っていたみかん用のトレイ。
毎日少しづつ形を変えて記録していたら、100種類以上のフルーツボウルのようなものができたので、ZINEを作りました。
Illustration: Haruna Kawai
会場には元木が制作した112ものバリエーションのフルーツボウルの写真が並べられているほか、実際に訪問者が触って、自分なりのフルーツボウルを制作できるキットも用意されています。
実際に自分の手で形作ってみると、硬質スポンジ素材シート、ダブルクリップ、輪ゴムという限られた素材でも色々な創作が可能だということが実感できます。
そして何度も繰り返していると、元木によって創作のルール設定されているからこそ、誰しもが簡単にフルーツボウルをデザインできるのだということも分かってきます(それは、度々目にする、サッカーが足しか使えないルールを設定したためにテクニックが発展したという視点を思い出させてくれます)。
そして、壁面に展示された112枚の写真を眺めていると、それらが似たようなものでありながら全く違うものにも見えてきます。それは元木のデザインに対する解像度の高い視点を感じさせてくれると共に、鑑賞している自分の目も鍛えられているような感覚を覚えます。
また、会場では、この展示に合わせて制作された小冊子と、自宅でフルーツボウルが制作できるキット(1000円+税)も販売されています。
その他の会場写真は以下でどうぞ。